2014年7月11日金曜日

インドネシアの本

インドネシア旅行のためにチェックした本。

ガイドブック



『地球の歩き方』

基本。情報量すごい。

購入したら、すぐにバラしてスキャンして、街ごとにホチキスで再製本して持っていく。旅先では、小冊子で見る場合もあるし、PDFにしたものをiPhone等で見ることもある。この作業は少々面倒なので、早いことPDFか何かでダウンロードできるようになってほしいと思っている。




地誌・歴史


『現代インドネシアを知るための60章』

今回はこの本がいちばん役に立った実感がある。『地球の歩き方』よりも、さらにもう一歩踏みこんで知りたいとき、このシリーズはいつも重宝する。興味ある章を拾うだけでも役に立つし、読み通すと相当なボリュームになる。




 『インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本』

天然ガスとか木材とか、若い労働人口が多いこととか、ビジネス目線でインドネシアに興味をもつ人が、興味をもちそうなデータがコンパクトにまとめてある。





水本達也『インドネシア――多民族国家という宿命』中公新書

未読。多民族国家としてインドネシアをとらえたうえでの現代史。同じ中公新書の『経済大国インドネシア-21世紀の成長条件』よりも、自分にとっては優先順位が高い。

インドネシアは、本質的に国際的というか、その国内だけで「世界」を成している国のひとつと感じた。ゆるいつながりはあるものの、バラバラになってもおかしくない諸民族を、標準語の絆でどうにかまとめている。その点では中国に少し似ている。






大槻重之『インドネシア専科』Webサイト

最近これをちまちま読んでいる(行く前に読むには難しすぎた)。
情報量は圧倒的。本にしたら何冊分になることか。
作者は駐在員をされていた方。
経済のみならず、歴史や文化への目配りが広く深い。



語学

降幡正志『インドネシア語のしくみ』

インドネシア語の文法はシンプルすぎるので、この薄い易しい優しい本だけでも、結構なところまでたどりついてしまう。深く知りたい場合は東京外大のインドネシア語学習サイトで補完する。





ドミニクス・バタオネ『インドネシア語が面白いほど身につく本』

軽そうな体裁だが中身は本格的。この本に載ってるフレーズを覚えれば旅行には十分すぎる。
インドネシア語の本は意外に少ないが(ニーズ的にはもっとたくさんあっていい)、そのなかで現状ベストな入門書と思う。
英語だけでも旅行はできるだろうけれど、ほんのすこしだけ覚えていった怪しいインドネシア語は、とくにジャワ島では予想以上に役に立った。



よみもの



金子光晴『マレー蘭印紀行』

金子光晴は戦前生まれの詩人で、南洋や欧州を放浪した人。

旅行記というよりは散文詩。熱帯の濃厚な空気、マレーの風物を描いた作品として名声高い。バトパハの街でロティ(パン)とバナナと珈琲の朝食をとるシーンが有名(?)。

読んでみると意外に社会派で、日本はじめ列強による経済支配を、冷ややかに見る目線が印象に残った。本人は無頼に適当に旅をしているかのような口ぶりで、まあ実際そういう面もあったらしいけども、語学や文化や歴史や地理や時事へのたいへんに深い見識に支えられた作品であることが、旅した後だとしみじみわかった。

面白かったので、より旅行記に特化していそうな『西ひがし』も読んでみたい。

2014年7月4日金曜日

電力小売の自由化と電気料金の自由化

発電所の固定費用(建設費用など)をF、従量費用(燃料費や維持費)を発電量1あたりPとする。発電所が耐用年数を迎えるまでの総発電量をWとすると、発電量1あたりの平均費用は P + F/W となる。以下これを「本来の」平均費用と呼ぶ。

いわゆるグリッド・パリティ、つまり、自然エネルギーのコストが、他のエネルギー(以下では原子力とする)のコストを下回るという条件は、

Px + Fx/Wx < Pn + Fn/Wn

で表される(自然エネルギーの添字をx、原子力の添字をnとする)。既存電力会社が新しく原発を建設するかどうかを検討する際に用いるのは、上記の「本来の」平均費用 Pn + Fn/Wn である。

ところが、既設の原発を利用しつづけるかどうかを検討する際は、建設費用はすでに支払った後である(埋没している)ことから、平均費用を Pn と考えて意思決定を行うのが合理的となる。現行制度および会計基準(※1)のもとで、既存電力会社および政府の行う意思決定は、既存の原発を廃棄して(※2)自然エネルギー発電所を新設するか、あるいは、既存の原発をそのまま利用するか、という形になる。両者を比較して自然エネルギー発電所の新設が選ばれるための条件は、

Px + Fx/Wx < Pn

である。原発の発電コストの大半は固定費用であり、Pnは非常に小さいので、この条件は自然エネルギーにとってきわめて厳しい(※3)。たとえグリッド・パリティが成立していても、この「本来以上に」厳しい条件が満たされない限り、原発を維持するほうが既存電力会社および政府にとって合理的であることになる。

この論理は正しい。この結論を原発反対派が正しくないと考える理由は、事故および廃棄物処理のコストやリスクを、推進派が過小評価していると考えるからである。リスクの評価に正解はなく、両者の議論がかみあうことは未来永劫ない。

ところが、電力小売が自由化されて、新規参入が容易になると、状況が変化する。現行制度では、既存電力会社は、電気料金で発電所の償却費用をまかなうことが要求されている(と思う)。この条件のもとで、原子力を利用する既存電力会社のつけうる最も低い価格は Pn + Fn/Wn となる。いっぽう、自然エネルギーを利用する新規参入会社がつけうる最も低い価格は Px + Fx/Wx となる。新規参入会社が価格競争に勝つ条件は、

Px + Fx/Wx < Pn + Fn/Wn

となり、これはグリッド・パリティの成立条件と一致する。

つまり、電力小売の自由化には、固定費用と可変費用を両方含めた「本来の」発電コスト競争を回復させる効果がある。事故や廃棄物についてのリスク論争が平行線のままであっても、グリッド・パリティが成立すれば、神の見えざる手が自然エネルギー側に有利な決着をもたらしてくれるようになる。

逆に、原発を維持したい勢力にとっては、電力小売の自由化と同時に、既存電力会社の電気料金設定方式の自由化を求めるのが効果的である。償却費用をまかなえないような、 サステイナブルでないダンピングを行うことで、新規参入会社との競争に勝つことができる。さらに、ダンピングが行われるかもしれないという脅威によって、新規参入自体を阻止する効果もある(※4)。この改革は推進派にとって一石二鳥である。というか、二羽目の鳥のほうが大きいかもしれない。

電気料金設定方式の「自由化」という文字面は、一見、公正で、競争を促進するようにみえる。けれども実際には、原発側だけ固定費用を除くことによって、また、ダンピング可能性による新規参入阻止によって、市場の競争条件を原発側に有利なように修正し、競争を阻害する効果がある。反対派はこのことに注意すべきだし、推進派はこれを利用してうまいこと言うといいと思う。

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※1 原発の資産価値が認められて、減価償却をこれまでどおり行い、原発の廃棄に伴う損失が公費で補填されない場合。
※2 廃棄にかかる費用は(実際には重要だが)ひとまず度外視する。
※3 池田信夫氏によると、Pnは4円程度とのこと。(「原発の燃料費は直接処分の場合で1円/kWhである。 これに運転維持費3.1円を加えると、変動費は4円/kWh程度」)なおこのリンク先で述べられている論理は、上記のものと同じである。
※4 実際にはダンピングが行われなくとも、その可能性があるだけで、新規参入阻止の効果がある。この抑止効果は隠然と作用する。